ピアボーナスとピープルマネジメント

ピープルマネジメントとは一般的に、社員や従業員といった人材について、単に業務効率や業績を重視した活用法を考えるのでなく、個々の意識やビジネススタイル、モチベーションなども踏まえた上で、総合的により良い方向へリードしていくマネジメント手法を指します。

従来のマネジメントでは、人材の能力や経験に注目して、どの人材をどの部署へ配置すれば最も合理的に業務を進められるかという、ロジカルな計算が重視されていました。

しかし働き方改革が実施されて、社員一人ひとりがワークライフバランスを考えるようになり、異なる個性を尊重しながら互いに高め合っていくというダイバーシティが重視される現代において、いつまでも目先の効率性ばかりを優先したマネジメントを続けていると、その会社はやがて時代に取り残され、さらに有益な人材ほど流出してしまうリスクが高まります。

業務効率や利益率を意識することは経営者やリーダーにとって必要不可欠ですが、むしろ社員にとって働きやすい環境を整え、それぞれが仕事への意欲やプライドを持ち、「この会社で働きたい」と思えるように促すピープルマネジメントこそが、結果的に企業としての成功へつながっていくといえるでしょう。

ピープルアナリティクスとは、人事に関して企業に蓄積されている様々なデータを統合し、客観的に分析しながら、企業としてより良い組織作りをプランニングしていく取り組みの総称です。

ピープルアナリティクスにおいて重要なポイントは、単に人材を実績やスキル、資格といった「結果」のみで評価するのでなく、それぞれの人材の「行動」や「個性」なども含めた、あらゆるデータを総合的に分析するということです。

例えば、どれだけ有能な人材を発見できたとしても、その人材が業務内容や労働環境にフラストレーションを抱えていることを見逃してしまえば、他のもっと働きやすい職場へ転職してしまう可能性が高くなるでしょう。

ピープルアナリティクスを適切に実施して、そこで得られたデータを組織づくりへ活かしていくことで、今まで以上に魅力的な職場や個々の実力を発揮できる環境を整えることが可能になります。

また、スキルや意欲が不足している社員を早期に発見して、適切な育成プログラムを考案したり、個人的にフォローをしてメンタルケアを行ったりしやすくなるという点も重要なメリットです。

「社員の気持ちや待遇を優先するより、最適な業務効率を重視する」といった考え方は、ごく短期的な利益を得るには有効かも知れません。しかし人工知能（AI）による業務効率化がそもそも促進されており、考え方や働き方でもダイバーシティが重視される令和時代においては、企業の将来を考える上で非常にリスキーです。

そのため、令和の時代でも企業の安定と成長を考えるのであれば、社員を企業にとって利用価値のある人的資源として見るのでなく、それぞれが自らの意思で強みを活かしながら働けるように、人財育成をサポートすることがカギといえるでしょう。

ピアボーナスは、社員同士のコミュニケーションをサポートして、個々の社員がお互いに「ありがとう」や「おめでとう」と伝い合える企業風土の醸成を促します。

加えて、これまで上司などから見過ごされたり、正当に評価されてこなかったりした人に対しても、互いが意識を向け合うことで適正に評価し、リスペクトしあえる環境づくりにも役立ちます。

社内コミュニケーションの密度が高まって、意識共有や情報交換が活性化されれば、色々な問題にもみんなが早く気づけるようになり、解決策のヒントも早期に得ることが可能です。また、従業員数の規模が多くなり、上司やリーダーが全ての部下を把握しきれない場合でも、周囲が自然とがんばっている人を賞賛し応援するようになるため、本人の自己肯定感やモチベーションも高まります。

社会全体が好景気で、会社にも資金が潤沢にあれば、十分なボーナスや給与アップで社員のモチベーションを上げられるかも知れません。しかし企業として厳しい時代が続く中、それでもピープルマネジメントを有効に行っていこうとすれば、経営者や雇用者だけが頭を悩ませるよりも、ピアボーナスなどのシステムを導入し、会社全体で信頼関係を強めて支え合っていく方が現実的であり、何より効率的です。

ピアボーナスシステムを導入したからといって、それだけでピープルマネジメントが成功したり、ピープルアナリティクスが効率化したりするとは限りません。

しかし、会社としてピアボーナスを導入する意図を正しく理解し、そのメリットを最大限に行かせるよう環境づくりを推進していくことは、それ自体がピープルマネジメントやピープルアナリティクスの第一歩といえるでしょう。